相続対策に役立つ「相続不動産の実務」、土地評価の新たなバイブル
相続が避けられない問題として迫る現代、その対象となる不動産の評価は、相続税という重圧をどう回避するかの大きな鍵となります。
特に、1960年代生まれの「団塊の世代」が相続を迎えるこの時代、適切な相続対策は緊急の課題です。
しかし、専門家である税理士ですら、その土地評価の複雑さにおいては手探りの状況が続いています。
ここに登場したのが、岡部弘幸氏と比佐善宣氏の著書、「相続不動産の実務」です。
実務の視点から多数の土地評価を手掛けてきた著者が、詳細な調査項目や資料の読み方、そして評価方法を親切に解説したこの一冊が、相続の不動産評価にどう役立つのかをご紹介します。
財産評価基本通達による土地評価の基礎
相続不動産の評価にはまず、財産評価基本通達の基礎をしっかり理解することが肝要です。
第一章では、その評価の原則として、どのように土地を評価するのか、路線価方式、評価単位の基礎、評価計算に使用される諸元など、基礎的な概念が丁寧に解説されています。
これによって、どのようにして土地が評価され、どのような要因がその評価に影響を及ぼすのかを理解することができるでしょう。
特に、「路線価」という土地評価の基本となる指標の見方や、「地積」および「土地の上に存する権利」といった土台となる概念について詳細に触れられています。
これにより、初学者から専門家までが見落としがちな税務上の土地評価の基本事項を整理することができ、相続税対策の第一歩を踏み出すことができます。
土地評価の実務
続く第二章では、土地評価の具体的な実務について述べられています。
この章の焦点は、地図や測量図の作成から各種法令の遵守まで、実際の評価の流れを一貫して追う点にあります。
例えば、公図の取得から法務局での調査、公図の種類、地積の変遷、さらには都市計画法や建築基準法との関係を示すことで、どのようにして正確な土地評価が行われるのかが具体的に示されています。
また、この章では「現地調査」の重要性が特に強調されています。
登記簿や地図上での情報だけでなく、現地に足を運び、利用状況や現況を実際に確認することで得られる情報は非常に重要です。
これにより、机上だけでは見えてこない様々な土地の価値が浮き彫りとなり、より精緻な評価が可能になります。
個別要因に基づく土地評価
第三章では、個別要因を考慮した土地の評価方法に焦点が当てられています。
例えば、無道路地やがけ地など、一般的に評価が難しいとされる土地も数多く存在しますが、これらがどのように評価されるかは、購入や相続の際に重要な情報となります。
また、都市計画道路予定地など、今後の発展性に影響を与える要因も考慮されており、詳細な状況判断が求められます。
また、この章では特に「評価額が下がる土地の個別要因」として、容積率の異なる2つ以上の地域にまたがる土地や、セットバックを求められる土地に関する具体的な評価方法が解説されています。
こうした要因は一見ネガティブに捉えられがちですが、正確な評価を行うことで意外な価値の向上を図ることも可能であり、戦略的な土地活用方法を模索するきっかけともなるでしょう。
比準方式の評価と私道の評価
第四章、第五章では、比準方式による評価と、私道の特別な評価方法について触れています。
比準方式では、倍率表を用いた評価方法が解説され、特定の条件下でどのように評価額が変動するかを理解する手助けとなります。
この知識は特に造成費や雑種地、農業用施設用地のような評価の難しい項目に対して大いに役立つことでしょう。
また、私道の評価は、不動産相続における大きなポイントです。
私道は公共の道路と異なり、その価値は既存の価値から大きく見積もりが変わることがあります。
これに関しても、具体的な評価基準が紹介され、扱う際の注意点が丁寧に示されています。
相続不動産の実務における重要なヒント
最後に、「土地評価チェックリスト」と「土地評価チェックポイント60選」は、実務上の有用なツールとして機能します。
これらのチェックリストは、予期せぬ見落としを防ぎ、正確な評価を確保する鍵となります。
特に相続が関わるケースでは、潜在的な問題や価値を予測、把握するための大きな助けとなり、不動産の相続におけるリスクを低減します。
相続不動産の評価は決して一筋縄ではいかない領域であり、専門的な知識と経験が求められます。
しかし、本書によって提供される豊富な情報は、税理士や相続のプロだけでなく、不動産を扱う際の戦略策定に悩むすべての方にとって大いに役立つことでしょう。
岡部弘幸氏と比佐善宣氏が提供するこのガイドブックは、相続対策における必需品として、本棚に加えておくべき一冊です。